【後編】保護者におけるeスポーツへの理解とNASEFの価値

【後編】保護者におけるeスポーツへの理解とNASEFの価値

NASEFは中高生を対象とした非営利の教育団体であり、充実したeスポーツプログラムを持っています。学生のeスポーツ体験を通して、学習機会や学校への所属意識、社会性の獲得などを目指しています。

 

今回は前編から引き続き、NASEF本部となる北アメリカで進められている研究のひとつ「保護者から見たNASEFの価値」について紹介していきます。前編ではインタビューの結果から、保護者のゲーム理解やeスポーツにまつわる懸念、ゲームにまつわる教育方針などを見てきました。

 

後編ではNASEFに参加することで得られる利益や、求められている改善点について解説し、まとめとして今後のNASEFの活動についても紹介していきます。

 

 

【調査対象】

NASEFに参加している学生の大半(84%)は男性で、インタビューを受けた保護者の大半が母親 (77%)でした。調査対象者は可能な限り多様性※ に富むよう選出されています。

※米国内の居住地、子どもの学年、社会経済的地位(母親の学歴から表される。Daly,Duncan,McDonough,& Williams,2002)、テクノロジーに関する自己申告の快適度、家族の人数(子供の人数で評価)

 

新型コロナウイルスによるパンデミックの影響により、参加者は13名と少数ではありますが、NASEFに参加している子どもの保護者に対して30~60分ほどのインタビュー調査が実施されました。

4.NASEFに参加することで得られる利益

保護者は子どもがNASEFプログラムに参加した結果として、複数の利益を感じていました。図2は、インタビュー中に挙がった利益とその頻度を示しています。

保護者が認識しているNASEFの利益の頻度

一番の利益として、保護者全員が「コミュニティ」を挙げました。

 

ある保護者は「子どもがクラブに参加してから、人と打ち解ける様子が見られるようになりました。今では違う州にもオンラインで話せる友達がいて、定期的に話をしています」と話します。

 

2番目に多かった利益として「学校との協力関係」が挙がり、「コミュニティ」と回答したときと共通する部分がありました。

 

ある保護者は「子どもたちは、学校でいつも自立心を感じているわけではありません。しかしゲームの空間では、その場所が自分のために存在しているように感じており、自立心を持っています。ゲームの空間が彼らにとってのコミュニティなのです」と話します。

 

ほかにも保護者からは「学問的にも子どもの助けになっています。良い成績を出さないとゲームはプレイできないという条件が、大きな動機となっています」といった意見も挙がりました。

 

クラブが学校主催で社会的なコミュニティであるという点が、子どもたちに最大の利益を提供しているようです。

5.NASEFの改善が求められる部分

インタビュー中、NASEFのプログラムに対する懸念や不満はほとんど挙がりませんでしたが、改善点が主に2つ挙がりました。

 

一つ目は「保護者が参加する方法」、二つ目は「学校からの支援を増やすこと」です。

5-1.保護者が参加する方法

38%の保護者が子どもを支援し擁護する方法として「保護者が参加する方法を増やしてほしい」と感じていました。

 

eスポーツでも伝統的なスポーツのように「応援」をするには、ゲーム知識が不足しているのです。 例えば、「フィールドを見る方法」「何を探しているのか」「いつ応援をすべきなのか」がわからないという意見が挙がっています。ある保護者は、「バスケットボールや野球の試合を見るのとは違い、家族が見て応援できない」と感じていました。

 

伝統的なスポーツと同様に、保護者は子どもの練習やパフォーマンスに興味を持ちます。保護者の1人は以下のように話します。

 

「子どもの最大のファンは、保護者か家族です。子ども自身のほかに、家族ほど献身や情熱を注いだ人はいません。ですから、eスポーツであっても保護者が関りを持たない理由はありません」

5-2.学校のチームへの支援

31%の保護者は、学校側にチームへの支援を増やすよう求めていました。この点でも、伝統的なスポーツとの比較がポイントになっています。

 

例えば、保護者は学校からの経済的支援として、「コンピューター機器」「人」「チーム用品」を求めています。ほかにも、「必要なゲームが学校のコンピューターで作動するかを確認すること(クラブ活動中のWi-Fiやゲーム機へのアクセス許可)」なども求められていました。

 

保護者は、学校に対してeポーツチームを「実際のチーム」のように扱って欲しいと願い、以下のように述べています。

 

「学校がもっと支援を提供してくれたら良いと思います。運動競技には、経済的な支援や施設の提供などの支援を行っているのですから」。

 

またそれほど多い意見ではありませんが、「eスポーツ全体の価値について、より広いコミュニティにもっと働きかけること」も要求されています。これはNASEFプラグラムが拡大し、増加していくにつれて実現するでしょう。

6.まとめ

保護者は、NASEFプログラムから得られる子どもの利益を楽しみにしています。

 

より多くの子どもや家族の利益・関与を目的として、将来的にプログラムを増加し、拡大する必要があります。特に保護者のための教育資料や、保護者が出席できるイベントを増やすべきでしょう。

 

保護者向けの教育資料には、以下のような事柄を記載していきます。

 

  • 子どものeスポーツへの興味を伸ばすことを支援する、「強化」にまつわる子育て方法
  • 初心者向けにゲームプレイを説明する保護者用のガイド
  • NASEFに参加することで得られる利益
  • ゲームやeスポーツへの懸念に関する研究結果

 

すでに資料は部分的には存在しており、さらに研究を進めて保護者のFacebookグループやプレスリリースなどで広めていく予定です。

 

また、保護者はNASEFに参加する学生を支援する方法の改善を求めています。保護者は、他の伝統的なスポーツと同じように子どものプレイを観戦し、応援できるようなりたいと思っているのです。例えば、観戦パーティーや協力プレイなど人が直接会うイベントを催すのもよいかもしれません。また、ゲーム内とゲーム外で何が起きているかなど、ゲームへの理解のハードルを下げることができれば、コミュニティの枠を越えてeスポーツへの理解が深まっていくでしょう。

 

NASEFJAPANとしても、今後日本独自の調査を進め、保護者の意見も交えながら日本ならではの教育プログラムの開発などを推進していきます。