
2021.08.25
ゲームは家庭のなかでどんな体験を与えてくれるか
2021.08.11
【前編】保護者におけるeスポーツへの理解とNASEFの価値
NASEFは中高生を対象とした非営利の教育団体であり、充実したeスポーツプログラムを持っています。学生のeスポーツ体験を通して、学習機会や学校への所属意識、社会性の獲得などを目指しています。
今回はNASEF本部となる北アメリカで進めている研究のなかから、「保護者から見たNASEFの価値」について紹介していきます。
NASEFに登録している学生の保護者について理解することは、NASEFの重要な研究目標のひとつです。
実は、保護者の懸念や子どもたちのゲームを規制する方法を調査した文献は多くあるのですが、「子どものゲーム生活をどのようにサポートすれば、充実したものにできるか」について研究した例はほとんどないのです(Steinkuehler, 2016)。
今回の研究では、主に以下の点について解明を目指しました。
【調査対象】
NASEFに参加している学生の大半(84%)は男性で、インタビューを受けた保護者の大半が母親 (77%)でした。調査対象者は可能な限り多様性※ に富むよう選出されています。
※米国内の居住地、子どもの学年、社会経済的地位(母親の学歴から表される。Daly,Duncan,McDonough,& Williams,2002)、テクノロジーに関する自己申告の快適度、家族の人数(子供の人数で評価)
新型コロナウイルスによるパンデミックの影響により、参加者は13名と少数ではありますが、NASEFに参加している子どもの保護者に対して30~60分ほどのインタビュー調査が実施されました。
保護者世代と現代の子どもたちでは、ゲームの環境が劇的に変化しています。現代のゲーム環境は昔よりも洗練され、高速通信によってプラットフォームを越え、社交的な手段としても用いられています。実際にこの環境の違いは、77%の保護者が実感していました。
例えば、保護者世代では、友達と交流するためには家を出なければなりませんでした。しかし現代の子ども世代は、学校以外の場ではオンラインでの交流が主流となっています。すでにマルチプレイゲームは、友人との交流において極めて重要になっており、共同作業や会話を行う場所なのです。
つまり、ゲーム内で友達と接することは、子どもたちにとって新しい社会化の環境になりつつあるわけです。
アメリカの保護者世代も「これまでゲームボーイやDS、Xboxなどのゲーム機をプレイしたことがある、または興味があった」と報告しています。
しかし、半分以上の保護者は、現代の子どもがプレイするゲームとは共通している部分はほどんどないといいます。保護者世代がプレイしてきたゲームは、シンプルで没入感に乏しく、オンライン環境もありませんでした。保護者世代がプレイしてきたゲームと、子ども世代がプレイしているゲームは別物であると区別しています。
ただ、数人の保護者は、自身のゲームプレイ経験が子どものゲーム活動を理解する根拠になっているといいます。
ある保護者は「週末に家にいるときは、ほとんどゲームをしています。子どもと一緒に遊ぶその時間を心から楽しみにしています」と回答しています。
半数以上の保護者はeスポーツを理解するために、伝統的な体を動かすスポーツと比較していました。スポーツと比較して、子どもの利益や欠点になる部分を理解しようと試みています。
とくに身体的なスポーツに興味がない子ども・保護者からは、eスポーツについて以下のような肯定的な意見が挙がりました。
一方で、他のスポーツと比較して、eスポーツは以下のような欠点が指摘されました。
ある保護者は、eスポーツも学校との協力関係を強化することによって、子どもたちのためになると考えていました。また、eスポーツに関連する分野や専門職への志望のきっかけになると期待していました。
NASEFに参加する子どもの保護者は、子どもがゲームをすること、ゲームで競争することを認める一方で、懸念や不安も表しています。
以下の図は、ゲーム・eスポーツに関して抱いている懸念についてインタビューした結果です。保護者13名全員が、少なくとも1つは懸念を表しました。
最も頻繁に出てきた懸念は「中毒」です。注意されてもゲームをやめることができない、またはやめたくないと抵抗するといった反応が見られるようです。
保護者1名は「中毒だと感じています。ですから、Wi-Fiにタイマーを設定しなければなりません。そうしなければ『もうやめる時間ですよ』といっても、すぐにゲームに戻ってしまうからです」と懸念を表していました。
2番目に多い懸念も「ゲームが止められない」ことに関連し、「過度に時間を費やすこと」でした。「中毒」という言葉こそ用いられませんでしたが、ゲームの時間が家族や個人の活動の邪魔になっていることが懸念されています。
そのほか「オンラインでのプレイは、社交性に結びつかないのではないか」という懸念は特筆すべきでしょう。
今回のインタビューで得られた懸念は、日本においても共通する点が多いのではないでしょうか。
インタビューの参加者はゲームに関する教育方針として、主に「制限、規制、強化」の3つのパターンで対応していました。
「制限」は、ゲームやインターネットなどへの接触を部分的・全面的に制限する方法です。保護者が子どものゲームへの接触についてルールを決めて、家庭内でのコントロールを保ちます。
半分以上の保護者は、ゲームに関してなんらかの制限をしていました。例えば、ある保護者からは以下のような発言がありました。
「家庭のゲーム文化に、過度に暴力的なゲームは加えたくありません。ですから『プレイしてはいけない』と伝えたゲームがあります」
「電源タップを引き抜いて、部屋のインターネット環境を取り上げるのが最終的な罰です」
特定のゲームタイトルを制限することもあれば、強制的にインターネットに繋げなくすることもあります。ほかにも、子どもが家のルールに従わなかった結果として、制限を行うこともあるようです。
「規制」は「誰と、何を、どれだけ」について、子どもの活動に制約を決める方法です。積極的な監視や、交渉を行うといった方針がこれにあたります。
インタビューを受けた保護者全員が子どものゲームに関して、なんらかの規制を実践していました。規制は主に3つのパターンに分かれます。
規制方針は、子どもが家での役割をこなしたり、期待に答えたりといった結果によって左右されます。加えて、子どもとの会話のなかでゲームの方針を立てていきます。
規制に関わる条件には、以下のような事柄がありました。
保護者からは、以下のような発言が挙がっています。
「ゲームについて理解するには、たくさんの会話のやり取りが必要です」
「ゲームの重要さを尊重しつつ『他のこともしないといけません』と伝えます。子どもと境界線に関する話をして、ただ『心地よくないから』という理由で電源を切ってはいけません」
この点でも、日本との違いは感じられません。「ゲームは宿題が終わってから」「赤点を取ったらゲーム禁止」などは、日本でもよく聞くルールではないでしょうか。
「強化」は知識や技術を伸ばすために、子どもの関心を伸ばす方法です。ゲームへの関心に基づいて、つながりや共同作業の機会を得たり、学習の手段に用いたりするわけです。
NASEFに参加する子どもの保護者の特徴をより反映しているのが、この強化かもしれません。インタビューを受けた保護者全員が、ゲームに関する強化(子育て方法)を積極的に実施していました。
保護者が報告した方法は、主に以下の4つです。
(Gee,Takeuchi,&Wartella,2018;Siyahhan & Gee,2018)
参加者の一人に「他の人に子育てのヒントを与えられるか」を尋ねたところ、以下の回答が得られました。
「子どもは自分が0.5秒でできるプレイでも、人に説明するには時間をかけなければならないことを知ります。それには親切さや忍耐強さが必要で、難しいことでも諦めずにやり遂げる経験となります」
後編は、認識されているNASEFの利益や改善点について解説していきます。