学校現場の声「eスポーツ現場で生徒の姿勢が変わる」(前編 クロストークセッション)
2021年3月20日に日本では初となる「NASEF JAPAN 国際教育eスポーツサミット 2021」が開催されました。
クロストークセッションは「eスポーツ×(日本+世界)=教育の可能性」と題し、クラーク記念国際高等学校の笹原圭一郎教諭、阿南工業高等専門学校の小松実教授、JHSEFの大浦豊弘理事、NASEF JAPAN 松原昭博会長が登壇。いま実際にeスポーツが日本の教育の現場で、どのような可能性を示しているのかお話いただきました。
今回は当日のセッションから「学生たちは学校でeスポーツを始めることで、何を学び、どこが変化したのか」に焦点を当て、事例を交えて紹介していきます。
内気な生徒が「eスポーツが僕を変えてくれました」と堂々と答えるまでに成長した
クラーク記念国際高等学校 笹原圭一郎 教諭
本校ではeスポーツのカリキュラムを2019年から開始し3年目に入りました。なかでもとくに印象に残っているのが、2021年に卒業した「ポンコツ君」というプレイヤーネームの生徒です。
本校は通信制ですので、様々な事情を抱えた生徒が入学してきます。そのなかでも彼は、私立の中学校で挫折してしまい「高校で再出発をしたい」という気持ちを持って本校を選んでくれました。
しかし、1年生のころは先生やクラスメイトに話かけるのも苦手で、周りに人いなくなったときにこっそり声を掛けてくるような生徒でした。
けれどeスポーツに出会うことで180度変わり、試合中には誰よりもコール(指示を出す)をするようになり、やがてインタビューでも「eスポーツが僕を変えてくれました」と堂々と答えられるほどコミュニケーション面で大きな成長を遂げます。
勉強に関しても「eスポーツでやってきたから」と苦手なことでもがんばれるようになり、生き生きと自信を持って「自分の居場所はここにあるんだ」と学校生活を送れるようになりました。
その生き生きとした表情は、後輩たちにも「自分の思うようにやっていいんだ」と伝わっていき、彼のおかげでeスポーツのコース内の雰囲気がとても明るくなりました。
表にでることが苦手な生徒が配信に取り組む
阿南工業高等専門学校 小松実 教授
3年前に授業にeスポーツを取り入れると言ったときには、学生たちから何度も「本当にいいんですか」と聞かれました(笑)。ゲーミングPCなどの設備も用意して「さあやろう」といった段階でも、「本当にいいんですか」と聞かれたのを覚えています。
一番大きな変化を見せてくれたのは、「全国高校eスポーツ選手権」に出場した生徒です。eスポーツとの出会って成長していく姿を目の当たりにし、保護者の方も驚かれていたました。
また、表にでるのは苦手だけどゲームの配信に興味があるという女子学生が「ゲームの配信をするためのスイッチャーを買って欲しい」と訴えてきたことがあります。機材を購入したあと、その子が没頭して作業している姿には、大きな変化が見て取れて感動しました。
大会出場のために校長先生へ直談判、プラカードで宣伝
JHSEF 大浦豊弘 理事
「全国高校eスポーツ選手権」へ出場するために、大変な苦労をして部を立ち上げた生徒たちが全国各地にいます。お伝えしたいのは、eスポーツを通じて自主性を養えるのではないかということです。
例えば、ある高校一年生の生徒は「どうしても大会に出たい」と校長先生や教頭先生に何度も直談判したそうですが、「よくわからんからダメ」と却下されてしまいました。けれど、そのがんばりを見ていたプログラム部の先生が「部のなかで班を作ってあげるから、そこでやってみなさい」とスタートできたそうです。
ほかにも、プラカードを作って校内で宣伝活動を行ったけれども部員が一人足りず、ゲーム好きといううわさだけで面識のない子を誘って部を設立したといった例があります。
過去を振り返って、校長先生に直談判をして何かを訴えた経験がある人はどれだけいるでしょうか。ゲームには自主性や積極性といった力を引き出すパワーがあると思います。大人の役割は、ゲームというツールを使い、どうやって学生たちの可能性を引き出してあげるか考えることだと思うのです。
ゲームはジェンダーフリーで、障害があっても対等な条件でプレイできる教育的なツール
NASEF JAPAN 松原昭博 会長
クロストークセッションにあたって質問も来ていたのですが、ゲームは依存症の話題と切っても切り離せない関係にあります。
しかし皆さんのお話のとおり、コントロールした環境下であれば、感動秘話がたくさんあるんです。ゲームはジェンダーフリーで、障害があっても対等な条件でプレイでき、こんなに教育的なツールは他にないと思います。それなのに、依存症を始めとしたネガティブな面ばかりがフォーカスされているように感じます。
NASEF本国であるアメリカでも、ゲームがうまく学生生活を送れない子の助けになっています。アメリカはみんな英語を話していると思うかもしれませんが、多民族国家なので英語ができない人も相当数います。そういう子どもたちとネイティブの子どもたちが同じ学校に通っていると、いじめや不登校といったことが起きてしまうそうです。そんな英語が不自由な生徒も、ゲームを通じて周りに溶けこむといった例が各地で起きています。
こうしたゲームの良い側面は、なかなか知られていません。NASEF JAPANはこのような例を日本国中でどんどん増やしていって「eスポーツって悪くないんだ」と理解を広めていくという活動を進めていきたいと考えています。