『League of Legends』からみる、eスポーツとSTEMスキルの親和性

League of Legends

Photo provided by NASEF

STEMは、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathematics)の頭文字を組み合わせた言葉で、現代社会で必要とされるコミュニケーション力や問題解決力、創造性などを養う教育・スキルです。

 

STEMスキルをゲームに応用するというと、製品開発を思い浮かべる人が多いかもしれません。実際、STEMスキルはゲーム制作のキャリアパスとして、親和性の高いものです。

 

一方で、STEMスキルはゲームを作るだけでなく、ゲームをプレイするうえでも重要な要素です。ゲーマーは無自覚に、クリティカルシンキングや問題解決のスキルを身につけていることが多いのです。

※クリティカル・シンキング:論理的・構造的な思考パターン。日常で無意識に行っている思考や行動を意識的に取り上げ、客観的に分析すること。

 

今回はNASEF本国で実施したインタビューをもとに、ゲームをプレイするなかでどのような思考・計算が行われているのかを見ていき、eスポーツとSTEMスキルの親和性を確認していきます。

ゲームから得られる科学的アプローチやコミュニケーション力

保護者世代も親しみが深いロールプレイングゲーム(『ドラクエ』、『ポケモン』など)では、強力なボスに出くわします。実は多くのプレイヤーが無自覚のうちに、ボスを攻略するために「科学者」になっているのです。

 

まず、クリティカルシンキングです。課題(ボス戦など)に直面すると、あらゆるものに注意を払う観察力が身につきます。

 

「戦闘に至るまでのシーンにヒントはあるか」「トラップや敵の攻撃に、攻略できるようなパターンはあるか」といった具合に、攻略法を見つけだすための思考が始まります。

 

それでもクリアできない場合、次の段階として、リサーチを行います。これは、科学的な研究プロセスと重なる部分が多いアプローチなのです。

 

「攻略本」は教科書や参考書などのテキスト、「インターネット(掲示板など)」は一種の査読付き論文、「友人への相談」は研究チームへの相談。プレイヤーは課題解決のため、無自覚に様々なアプローチを試みているのです。クリアできたら、さらに難しい課題に進むことも同様です。

 

さらに現在のマルチプレイヤーゲームの多くは、これまでのゲームと同様のスキルに加えて、幅広いチームワークが求められます。

 

多くの場合はパーティーを組んでゲームを開始し、ゲームによってはプレイ中ずっと同じ編成の場合があるのでより良い編成を組む必要があります。

 

また『オーバーウォッチ』のようなゲームでは、キャラクターをいつでも変更できるため、チームワークを保ちつつ、プレイスタイルを変えていく必要があります。

 

ビジネスの場では、人が集まったらアイスブレーカー(場の緊張をほぐすようなもの)が必要であったり、プロジェクト開始にあたってチームビルディングが重要だったりします。ゲームでは、これらの試みが瞬時に構築されているのです。

『League of Legends』からみる数学の必要性

eスポーツの様々な場面で、基礎的な数学の能力が必要になります。今回は『League of Legends』を例に紹介していきます。

 

『League of Legends』ではダメージ量の決定から、アイテムを買うためのゴールドの予算まで数字が溢れています。より高いレベルで成功するためには、複雑な計算を素早く行う必要があります。

 

なかでも深い思考が必要な局面として、アイテム効率が挙げられます。

 

射撃手としてダメージを最大化するためには物理的なダメージを増やすことが重要ですが、それ以外にも考慮すべき要素があります。例えば「装甲貫通力」「攻撃速度」「クリティカルストライク率」などのステータスに、ゴールドの一部を使ったほうが効率的な場合があります。

 

これらのステータスはゴールドを消費するアイテムによって向上するため、ゲームごとに適切な予算でアイテムを購入し、ダメージを最大化する必要があります。

 

ゲームの後半でBaron NashorやElder Dragon などの主要な目標を取る場合、最後の一撃を確保する負担はSmite(これらの目標に高いダメージを与えるアビリティ)を持つJunglerにかかります。

 

プレイヤーは、目的地の残りのヘルスを注視しながら、自分のSmiteがどれだけのダメージを与えるかを意識しなければなりません。

 

また、この素早い計算が必要となる問題だけではなく、ゲームごとに変化する多くの要素があります。Cho’GathやKalista、Nasusなど、一度に大きなダメージを与えるチャンピオン(キャラクター)の存在です。

 

爆発的なダメージや敵のJunglerが自分のSmiteを使ってくる脅威は、ダメージを与えるペースを狂わせるため、目標を確保する際に考慮しなくてはいけません。

 

ユーザー側の計算で最も複雑なのは、抵抗力(アーマーと魔法抵抗)の計算方法でしょう。例えば、アーマーは次のような式で計算されます。

Damage multiplier

引用:https://leagueoflegends.fandom.com/wiki/Armor

計算方法の関係で、抵抗値は(アイテムを)買えば買うほど減っていきます。一般的には、ほとんどのプレイヤーが約200以上のアーマーを購入する価値はありません。しかし、物理ダメージの多い敵チームに対しては、効率的かつ効果的なアーマーとヘルスのバランスを見つける必要があります。

 

メカニックや戦略、チームワークが成功の柱となるゲームですが、最高レベルに到達するためには、これらの数学的概念をマスターする必要があります。

まとめ

『League of Legends』から紹介した計算は一例に過ぎませんし、ゲームには各タイトルごとに独自の計算があるといっても過言ではありません。

 

このように、STEM教育で培われるスキルとゲームで必要とされるスキルには、強い関連性があります。

 

これらのスキルは楽しくエキサイティングなゲーム体験につながるだけでなく、社会をよりよく生きていくためのスキルとしても役立つのです。