eスポーツ界で女性プレイヤーを増やす 女性限定大会の役割とハラスメント対策

女性プレイヤー

スポーツの世界では、男女でチームを分けることが一般的です。その理由はさまざまですが、主たる要因は体格の差が怪我につながることでしょう。

 

その点でeスポーツは体格差による不利はなく、男女がともに競いあえます。しかし、チェスのような体格を問わない競技でも男女別の大会が開かているのはなぜでしょうか。

 

今回はアメリカのeスポーツライター・ジェフ・ヤブモトの「競技における男女の隔たりを解消するために」をもとに、eスポーツにおける女性プレイヤーについて考えていきます。

 

女性限定の大会を開く理由や、eスポーツにおける女性プレイヤーの成功例を紹介し、eスポーツ界で女性プレイヤーを増やすための取り組みを解説していきます。

チェスに見る女性限定大会の必要性

スポーツが男女別で行われるのは、体格の差が大きな理由として挙げられます。とくに接触を伴う競技では、体の小さい女性に怪我のリスクが伴います。

 

しかし、チェスのような体格差を問わない競技でも、男女別で大会が開かれることがあります。日本においては、女流棋士をイメージするとわかりやすいでしょう。

 

女性限定の大会が開かれる理由として、多くの女性に興味を持ってもらうきっかけになることが挙げられます。女性が自身の能力に自信を持てるよう、競争の機会を提供する役割があるのです。

 

また、女性限定の大会は、他の女性のロールモデルとなり、競技への意欲を高めるメリットもあります。

 

チェスでは、女性のトップ選手でも混合戦では上位に食い込めず、メディアの目に触れる機会が少なくなっています。

 

しかし、女性限定の大会で優勝すればメディアにも取り上げられ、競技者のロールモデルとなります。未来の競技者を生み出すエコシステムを機能させるためには、重要な試みといえるのです。

 

【チェスと女性の機会均等について深く知りたい方は、スポーツイラストレイテッド誌のリサ・レーンの記事をご覧ください】※全英文になります。

eスポーツ界で活躍する女性プレイヤー

eスポーツにおけるジェンダー統合について、『StarCraft』のプロであるSasha “Scarlett” Hostyn選手と、『Overwatch League』のプロであるSe-yeon “Geguri” Kim選手を取り上げます。

 

この2人は最高レベルの競技会で活躍しており、実力主義のeスポーツ界で活躍する代表例ですが、複雑な問題にも直面しました。

 

Geguriは『Overwatch League』に参加する以前、不正行為をしていると非難されたことがあります。Blizzard社はGeguriに不正行為の事実がないことを確認し、彼女を非難したプレイヤーたちは謝罪した上で、過ちが証明された場合の約束通り、『Overwatch』のプロを引退しました。

 

この騒動が性別と直結しているわけではありませんが、『Overwatch』のシーンで他のプロ選手に同様の告発がほとんどないことから、性差別の要素は否定できないでしょう。

 

後にGeguriは「上海ドラゴンズ」※1に欠かせない存在となり、世界中のファンにインスピレーションを与えました。

※1中華人民共和国・上海市を本拠地とする『オーバーウォッチ』電競チーム
上海ドラゴンズ

写真:Robert Paul for Blizzard Entertainment(ロバート・ポール・フォー・ブリザード・エンターテインメント

Scarlettはファンの間では「Queen of Blades」と呼ばれており、eスポーツ界で活躍する女性の代表例です。彼女の有名な勝利として、2018年冬季オリンピックの一環として開催された「IEM PyeongChang」が挙げられます。彼女は『BlizzCon』で2度優勝したKim “sOs” Yoo Jin選手と対戦しました。

 

Geguri、Scarlett、Stephanie “missharvey” HarveyCLG: Red、そしてグローバルeスポーツ組織Gen.GのFortniteチームの女性たちは、eスポーツ競技の最高レベルで活躍する素晴らしい例です。

グローバルeスポーツ組織 Gen.Gのフォートナイトチーム 

写真:グローバルeスポーツ組織 Gen.Gのフォートナイトチーム 

女性プレイヤーに対するハラスメント問題

eスポーツシーンでより多くの女性が活躍するためには、変革が必要です。UCI Overwatchチームのメインサポートを務めるVictoria “Saffrona” Winn氏は、以下のように語ります。

 

「ゲームをもっと若い年齢層に歓迎されるようにしなければなりません。私は幼稚園に入る前からゲームに夢中になりましたが、それは家族がきっかけをくれたからです。他の多くの女の子は、そのようなきっかけがありませんでした。また、対戦型のゲームはより良い文化を持つべきだと思います。現在の対戦型のゲームは、ハラスメントや有害性に満ちた居心地の悪いものだと指摘されており、それは否定できません。これでは、ゲームを始める前から人が離れていってしまいます」

 

若い女性が競技シーンでプレイする際、脇に追いやられたり、活動を阻害されたりといった問題があります。

 

そのなかでも特にひどいのが、ボイスチャットでのハラスメントです。女性がプレイしていることを知ったプレイヤーは、下品なジョークや暴言を吐いたりして、嫌がらせをするのです。『Overwatch』『League of Legends』『VALORANT』『CS:GO』……どのゲームでも同じような問題が起きています。

 

このような嫌がらせが続けばゲームへの情熱を失い、シーンからも姿を消してしまいます。

 

チェス界では、2018年に米国チェス連盟の女性委員会委員長であるモーリーン・グリモー氏は、以下のように発言しています。

 

「チェス界では、年齢が上がるにつれて女子の人数が減っていきます。彼女たちが友情を育む場を提供することが重要です。単に人数を増やすだけでなく、より多くの女子に居心地の良さを感じてもらい、知的にも、競技的にも、社会的にもチェスを楽しめるような文化を築くことが目標です」

 

eスポーツでも同様の取り組みが求められるでしょう。

女性プレイヤーの活躍を促すステップ

ハラスメントの防止と女性を学生のうちからeスポーツシーンへ促す取り組みにより、多くのゲームでプロの女性プレイヤーを増やすことにつながります。「世界のトップと競いたい」と願う女性たちにとっても、プロへの道が明確になるでしょう。

 

モーリーン・グリモー氏は、ハラスメントをなくすことの重要性について聞かれると、こう答えま た。

 

「最高の競技者は、ショットを打つスキルや反応速度だけでなく、優れた精神力を持っています。落ち着いていて、自分のプレーにも自信を持っています。しかし、嫌がらせをされると、自分のプレイに集中できなくなり、同じゲームをプレイしているとは思えない状況に陥ります。女性はゲームに集中するだけでなく、ハラスメントをどう避けるかにも集中しなければならないのです。敵チームに勝つだけでなく、自分のチームメイトにも勝たなければならないような別の障害が加わってしまうのです」。

ハラスメントに対抗するには、問題が起きた際は他のプレイヤーへ呼びかけ、できるだけ早くシャットダウンしましょう。

 

また、大学や高校で女性にゲームやeスポーツシーンへの参加を促すことも大切です。クラブの文化は、新しいことを学びたい人が心地よく過ごせる環境を重視して構築します。

 

現時点で最高レベルの競技会に参加している女性は少ないですが、eスポーツはジェンダーを統合したスポーツになる可能性を秘めています。

 

NASEFでは「eスポーツはみんなのもの」と考えます。女性の活躍を促すために、ぜひ以下の3つのステップを覚えておいてください。

 

1.年齢に関係なくプレイすることを奨励する

2.仲間の有害性を指摘する

3.ゲーム文化の向上