学業としてeスポーツを探求する方法

学業としてeスポーツを探求する方法

eスポーツに打ち込む学生のなかには「大学では、法律や化学と同じようにゲームについて考えを深めていきたい」と考える人もいるでしょう。そのような学生に対し、教育関係者はどのようなアドバイスを送ればよいのでしょうか。

 

今回は、南カリフォルニア大学の修士課程に在籍するアビー・シャーロックへのインタビューをもとに、学業としてeスポーツを探求する方法を解説していきます。

 

アメリカと環境は違えど、実体験をもとにしたアプローチは、今後eスポーツ界を目標とする学生の役に立つことでしょう。

アビー・シャーロックについて

まず、アビー・シャーロックについて簡単に紹介していきます。彼女は南カリフォルニア大学の修士課程で、インタラクティブメディアとゲームデザインを専攻しています。

 

彼女はYouTubeなどでコンテンツ制作を行う制作会社で働いたり、企業と契約してストリーマー・インフルエンサーとして活動したりしています。そのほかにも、インターンでキャスティング・ディレクションを学び、オーバーウォッチリーグやeスポーツイベントでホストを務めるなど、様々な場所で活躍しています。

 

アビー・シャーロックがeスポーツホスト務めたOverwatchLeagueのeスポーツチームVancouverTitansの試合模様

Titans This Week Presented by Sportsnet | Overwatch League: Week 21

eスポーツの研究を学校で認めてもらうために

シャーロックはアカデミックな環境でeスポーツに携わってきましたが、それは自分から働きかけによって得られたものでした。

 

学校でeスポーツの研究を認めてもらうための最大のポイントは、ゲームやeスポーツを取り巻く文化的な時代の流れを示すことです。シャーロックは「特に高等教育機関では、ゲームやeスポーツを研究対象とすることに、少し陰りや軽視があるように感じた」と話します。

 

ただ、ほとんどの教授は良いアウトプットの創出ができることを証明すれば、研究を了承してくれたといいます。その際に有効だったのが、ゲームやeスポーツに関する学術論文や出版物を紹介し、自身の研究対象が有用であるという具体的な証拠を示すことです。学生にとって最初の大きな課題は、研究を始める前に引用できる資料を見つけることでしょう。

 

作成した論文をポートフォリオとすれば、自身のウェブサイトや履歴書に加えることができ、自分が情熱を傾けていることについて客観的に語る力がある証明にもなります。自分から積極的に行動することで、将来の進路を選ぶにも有利に働くのです。

ゲームと学業を結びつける方法

ゲームと学業を結びつけるには、ゲームに適用できる表現やアイデンティティーの交錯する分野を見つける必要があります。

 

例えば、シャーロックは「ゲームにおけるジェンダーの多様性について書くことが多かった」と話します。「The Feminization of Casual Games(カジュアルゲームの女性化)」というテーマで、『牧場物語』や『どうぶつの森』などのカジュアルゲームと、そのプレイヤー層であるジェンダーの多様性についてまとめました。これはゲーマー向けの論文でありながら、社会人類学的な論文でもあります。

 

つまり、単に「このゲームはかっこいい」と書くのは論文ではないということです。シャーロックが『ゼルダの伝説 時のオカリナ』を題材にした論文ではゲームの構造が物語に直結しているから、史上最高のゲームになった」とまとめていきました。

 

eスポーツ選手のコミュニケーション力が欠如しているという指摘があれば、学術者としては「それはなぜか、どのようにすればその問題を解決できるか」と問う必要があるのです。

 

大学ごとに特色は異なるので、アプローチの方法も異なってきます。例えば、シャーロックが所属したカリフォルニア大学サンディエゴ校は社会正義と歴史に力を入れています。歴史の授業であれば「そのゲームが人種の多様性を表現しているか」に注目するといったアプローチがあるでしょう。

 

このように、ゲームを横断的なメディアとして捉え、論理的な考えを示すためのアプローチを見つけることが求められるのです。

eスポーツ業界へ参入しようとしている人へのアドバイス

シャーロックは「eスポーツの分野に精通した経験豊富な人からアドバイスをもらうことは、計り知れないほど役に立つ」と言います。特に映画やテレビの分野では、メンターとメンティーの関係は10年、20年と続くことが多いといわれています。彼女は実際に、メンターを提供してくれるいくつかのゲーム向けプログラムに参加しており、自身もメンターとして活動した経験があります。

 

ゲームデザインやeスポーツに興味を持っている人は、オペレーションやホスピタリティなど広い分野で知識を得る必要があります。ゲームデザインを行う際には、レベルや戦闘、キャラクターなど、さまざまな分野の知識が求められるからです。

 

より多くの知識を持って経験を積めば、より賢く、より良い仕事ができるようになるでしょう。

 

【『Smite』アートディレクターのインタビュー記事でも「レベルデザイナー*には建築や自然についての知識が必要」と、シャーロックと同様の意見が挙がっています。興味のある方はこちらもご覧ください。】※全英文になります。

 

*レベルデザイナー:ゲームのステージの構成などをデザインする、ゲームデザイナーを細分化した職業。例えば、プレイヤーの視点を配慮したうえで、キャラクターやアイテムの配置などを決定するといった仕事がある。