星槎国際高等学校帯広学習センターインタビュー

eスポーツ部の設立や活動に悩む先生方のため、先進的にeスポーツを教育の現場に取り入れる学校にインタビューを実施。第一弾となる今回は、いち早く教育の現場にeスポーツを取り入れ4年目を迎えた、北海道帯広市にある私立星槎国際高等学校帯広学習センターの取り組みをご紹介します。

 

eスポーツゼミを担当する大橋紘一郎教諭とその生徒さんたちから、日々の具体的な活動や生徒への指導について、NASEF JAPANの坪山がお話を伺いました。

星槎国際高等学校帯広学習センター

●星槎国際高等学校帯広学習センター(https://seisa.ed.jp/obi/)
大橋紘一郎 教諭 / 写真中央
新井圭奈さん(1年生)/ 写真左
五十嵐圭佑くん(3年生)/ 写真右

●インタビュアー
NASEF J APAN スカラスティックディレクター 坪山義明

星槎国際帯広の取り組みと“大橋マジック”

坪山 まず、星槎国際帯広eスポーツ部の活動について伺いたいと思います。

 

大橋 活動日は月曜・火曜の15~17時です。水曜には、eスポーツのゼミを同じ時間に開いています。当校は10時20分から15時までが必修の授業となっており、15時からがゼミや部活動の時間帯となっています。17時には完全下校します。

坪山 ハード(ゲーム機)はどの程度用意されていますか。

 

大橋 ゲーミングPCはサードウェーブさんの「高校eスポーツ部支援プログラム」※を利用して、5台(デスクトップ3台、ノートPC2台)あります。あとは最初にPS4を1台買っていますが、使いたい人が使っている感じです。

※現在は行われておりません

 

坪山 eスポーツを用いた活動において、目標設定などはあるのでしょうか。

 

大橋 ゼミと部活動で違った目標があります。部活動は「大会などで勝つ」ことを目標としています。そのためにチーム練習をします。もちろん、全員が優勝できるポテンシャルを持つわけではないので、個人の青春としての役割もあります(笑)。自分なりの目標を持って、達成していこうと。

例えば、今年は『LoL』部門が代替わりをして、ほぼ全員が初心者となりました。そんななかで先日行われた“全国高校eスポーツ選手権”の予選では、「まず一勝しよう」という目標を掲げました。そのために自分たちで何ができるかを考えて練習メニューを決め、あとは強豪に当たらないためのお祈りをしようと(笑)。

 

坪山 お祈りも大事ですよね(笑)。

 

大橋 大事ですね。初戦から優勝候補に当たってしまうと、手も足も出ずに終わってしまうので。幸い実力の近いチームと当たり、結果的に負けはしましたが、そこから学べることは多く、良い機会を得られたと思います。今後の目標は、今の1年生が3年生になったときに優勝することです。そのために今、何ができるかを部会の時間に話し合っています。

 

坪山 部活動として扱うタイトルはどのように決めましたか?

 

大橋 「大会での勝利」を目標に設定した部活動では、全国高校eスポーツ選手権の採用タイトルである『LoL』と『ロケットリーグ』です。ほかにも、『スプラトゥーン』や『大乱闘スマッシュブラザーズ』などは、生徒たち自身でイベントを開いたり、自主的に大会に参加するといった活動をしています。

 

坪山 eスポーツゼミのほうは、どのような目標設定を掲げているのでしょうか。

 

大橋 eスポーツゼミは授業ですので、まずは「出席しよう」が目標となります。そもそもeスポーツを授業で取り扱うようになったのは、「子どもが学校になかなか行けず、家でゲームばかりしている」という保護者の方や地域からの相談を受け、「そういうことであれば、学校でゲームができればいいよね」とスタートした経緯があります。

 

坪山 eスポーツゼミでは、具体的にどのような授業をされているのでしょうか。

 

大橋 メインの授業はプレゼンテーションです。自分の好きなゲームについて、5~7分程度の時間で魅力を伝えてもらいます。プレゼンは生徒同士が友達になるきっかけとなり、人と出会うことで、学校が楽しいという気持ちに繋がっていくわけです。

 

坪山 では、生徒さんにもお話を伺いたいと思います。まずは3年生の五十嵐君。学校で好きなゲームについて学べるということは、五十嵐くんにとって大きな変化に繋がりましたか?

 

五十嵐 僕は小学校のころから人前で話すことが大嫌いで、中学校は人嫌いのせいで不登校になったんですね。進路を選ぶときも、いくつかの高校を見てみたのですが全然合わなくて。そんなときに中学校の先生から星槎を紹介されて、調べてみたらeスポーツゼミがあり、ゲームについて学べるという環境はおもしろいなと思って入学しました。

 

坪山 1年生から3年生までゼミを中心にeスポーツに関わるなかで、どのような変化がありましたか。

 

五十嵐 1年生のときからゼミには入っていたのですが、実はほとんど活動していませんでした。プレゼンにも大会にも参加せず、いわゆる幽霊部員のような感じです。ずっと「プレゼンなんてやるか。端でゲームをやっていればいいや」と思っていたのですが、なんの活動もしていないと「ここにいる意味はあるのかな」とつまらなくなってくるんですね。そんな風に過ごしていたとき、1年生の2月頃に大橋先生から「プレゼンをやってみないか」と言われ、挑戦してみたらすごく楽しくて。そこで初めて「eスポーツゼミってこういう場所なのか」と実感して、本格的に活動し始めました。

2年生からは積極的にイベントにも参加し始めました。そうしたらいつの間にかeスポーツゼミで代表のような立ち位置となって、今のように人前でも話せるようになりました。

 

坪山 なるほど、「大橋マジック」にかかったということですね(笑)。実は私も御校の記事を読んだりしているうちに「大橋マジック」にかかった人間なので、五十嵐くんの気持ちの変化はよくわかります。私も元教員なのでその立場から見ても、大橋先生は生徒さんの引き出し方がすごく上手です。五十嵐くんへ1年生の終わり頃にプレゼンを勧めたのも、おそらくそのタイミングがベストで、もっと早い時期だったらプレゼンが嫌いになっていたかもしれない。

 

新井さんは1年生ということで学生生活もこれからだとは思いますが、入学前に思い描いていたこととギャップはありましたか。

 

新井 私は兄が星槎に入っていて同じeスポーツ部で活躍していたので、ゼミや部活の内容はよく聞かされていました。実際に入ってみるとみんなのやる気がすごくて、「押し負けないようにがんばらなきゃ」と空回りしてしまったところもありました。それでも、プレゼンでトップバッターをやってみたり、いろいろとチャレンジしています。

 

坪山 他の生徒さんを見て、入学してから「変わったな」と感じる子はいますか。

 

新井 一緒に入部した友達は、中学の頃はあまり人前で話すタイプではなかったのですが、eスポーツゼミに入ってからは他の友達と話す姿をよく見るようになって「成長してる」と感じます。

 

坪山 同じ目線の友達の成長を感じられるのは、それだけ俯瞰で見えていて、友達に対するリスペクトがあるからでしょうね。入学して間もないのに素晴らしいですね。新井さんが三年生になったとき、また改めてお話を伺いたいと感じます。

では、生徒のお二人から見て、大橋先生はどんな先生ですか?

 

新井 私は入学前から兄に大橋先生の話を聞いていたので、「そんなすごい人がいるのか」と思いながら入学しました。実際にお話すると話の核心を突いてくれたり、的確なアドバイスをくれたりするので、話しやすくていい先生だと思います。

 

五十嵐 自分を変えてくれた人です。大橋マジックです(笑)。

 

坪山 「人を変える」ということは、すごく難しいことです。教師は目先のことだけを見ているのではなく、生徒さんの将来を見据えての指導を心がけていますが、五十嵐くんの一言はまさに「大橋マジック」の力を表していると思います。

 

大橋 僕は単に「僕が楽しいと思うことを一緒にやろう」と言っているだけですから。彼が、僕が楽しいと思うことを一緒にやりたいと思ってくれた。ただそれだけですよ。

初心者への指導、レギュラー決めの問題

坪山 ここからは、eスポーツ部運営のノウハウになるよう、より具体的な活動について伺っていきます。まずは、普段の練習環境について教えてもらえますか。

 

新井 学校まで一時間かかるという子もいるので、基本はそれぞれの家で練習をしています。声の掛け合いはボイスチャットよりも間近にいるほうが届きやすいので、大会の前などは集まって練習をします。

 

大橋 部活動で集まる時間は、ゲームの戦略やチャンピオン(キャラクター)解説などの学びの時間としています。チャンピオン解説は毎週持ち回り制にしており、自分の得意なチャンピオンについて、強い点や弱い点などをまとめて発表しています。また、OBがコーチをしてくれるときもあります。

 

坪山 自宅での練習がメインとのことですが、各家庭ごとに通信環境やPCのスペックなどにも差があり、場合によってはラグなどの問題も起こり得ると思います。このような問題には、どのように対処されていますか。

 

大橋 回線の状況が悪いのであれば、その原因を一緒に考えます。家の構造の影響であれば、詳しい生徒やOBを呼んで一緒に対策を練る。ともに解決すべき課題であり、学びのポイントだと思っていますね。

 

坪山 部活動として活動していくなかで、初めてのゲームタイトルに挑戦する生徒もいると思います。初心者に対する指導はどのように行っていますか。

 

大橋 僕も『LoL』を始めて4年目なのである程度は指導できます。足りないところや高度な話は、高校eスポーツ部交流コミュニティーがありまして、そこでプロの方などに指導を受けています。

 

新井 生徒同士でも対戦のなかで、「こういうときは、こういう動きをしたほうがいいよね」と足りない部分を教え合っています。

 

坪山 eスポーツもタイトルによって差はありますが、レギュラー(スタメン)を決めなければいけません。とくに顧問の先生のゲーム知識が乏しいとレギュラーの選考に悩むと思うのですが、大橋先生はどのようにレギュラーを決めていますか。

 

大橋 去年は部員が10人いたので、確かにレギュラーの問題がありましたね。例えば『LoL』では、ボット※と呼ばれるレーンではコンビで行動するので、普段から二人組で練習することになります。他のレーンも基本的には同様で、普段から一緒に練習する人たちが決まってくるわけです。実力によって一軍、二軍のような雰囲気はありますが、それ以上にコミュニケーションが重要なので、お互いにやりたいことがわかっているメンバー同士でチームを組むようにしています。そのレーンで一番上手い人を別のチームに配属しても、普段通りの活躍ができるとは限らないわけです。これは『ロケットリーグ』にしても同じですね。

ボット※:3つあるレーンの下側のレーン。二人で戦う特殊なレーンで、単独での戦闘が苦手な「ADC」と補助能力に特化した「サポート」がコンビとなる。

他校の生徒同士で交流できる機会を

坪山 大橋先生のような先駆者から、NASEF JAPANに求めることなどを伺えればと思います。

 

大橋 いまパッと思いついたことですが、進路説明会などをしてくれると良いかなと思います。eスポーツ関連企業の合同説明会などがあると、生徒の夢に対するサポートになるのではないでしょうか。

 

坪山 大橋先生は個人的にも他校のeスポーツ部との交流を盛んに行っているそうですが、eスポーツのコミュニティに求めることはなんでしょうか。

 

大橋 生徒同士の交流がなかなか実現できていない現状がありますね。先日も他校と連絡を取り合い、「eスポーツ部の交流をしましょう」ということで生徒同士の雑談のあとに、チームを混ぜてプレイをしました。僕個人としては、生徒同士に交流を持たせたいと常々思っていて。試合後に生徒が各ポジションごとにアフタートークができる環境が好きなんです。

 

坪山 個人的なコネクションを持たない教育関係者に対して、NASEF  JAPANがハブの役割を担えれば、その意義は大きいでしょうか。

 

大橋 ありがたいと思う高校は多いと思います。しかしながら、NASEFのeスポーツコミュニティの斡旋だと、試合を効率的に行える反面、部活同士の交流を持ちにくいところがあります。

 

新井 同じポジションで上手い人には「こういうことを聞いてみたいな、どんな人柄かな」と思うことがあります。けど、他校との練習試合では、お相手方の生徒さんと話をする機会はあまりないんです。かといって、他校の生徒さんと一対一で話すのは怖いところもあるので、大規模な交流界などがあると話しやすいですね。

eスポーツ部(ゼミ)に所属する生徒の進路

坪山 最後に、「進路」についてお話をしていきたいと思います。

 

五十嵐 いつかみんなが集まれる場所を作りたいです。就職してからお金を貯めて、東京にあるカクテルの専門学校へ行きたいと考えています。カクテル作りを学んだあとは、eスポーツとカクテルを合わせて、eスポーツバーなどできたらおもしろいのではないかなと思っています。

 

坪山 素晴らしい夢ですね。お店をオープンしたら私も通いますので、ぜひ頑張ってください!

新井さんは2年生、3年生に向けての目標をお聞かせください。

 

新井 私はイラストを描くのが好きなので、イラストでeスポーツの界隈を盛り上げたいと思っています。今は友人とVTuberとして活動をすることを目標としていて、いろいろと作戦を練っています。

 

坪山 いいですね。配信が始まったら見ますので、ぜひ頑張ってください!

大橋先生に伺いますが、eスポーツ部という性質上、プロゲーマーやストリーマーになりたいという生徒さんもいると思います。こうした夢に、どのようなアドバイスをされますか?

 

大橋 まずは「その夢を叶えるために何が必要なのか」と質問を返し、それに答えられなければ「調べてからまた来なさい」ですね。真剣に夢を叶えたいと考えている子は具体的に動き始めているので、そういう子には案件を振ります。

例えばイラストレーターになりたいという子には「学園祭のロゴを作って」「webサイトのイラストを描いて」といった具合に、どんどん依頼を出しています。そうした依頼をこなしていくなかで成長していきますし、その先にお金をもらえるレベルまで到達してほしいと思っています。もし納期に間に合わないなどの失敗をしても、それも良い経験になります。僕の持ってる人脈や時間を投資して、一緒になって本気で夢の実現に向けて考えていきますね。

 

坪山 大橋先生の仰ってることは身に沁みてわかります。夢を叶えることができなかったとしても、過程が大事であり、夢を叶えるために考えることや行うことに価値があると思います。

では最後に、大橋先生から「これからeスポーツ部を立ち上げたい、立ち上げたばかりで何をすればいいかわからない」という先生方へ向けてアドバイスをお願いします。

 

大橋 自分のなかにある「eスポーツ部はこうではなくてはいけない」という思い込みを無くしてもらいたいですね。その上で、自分が生徒と一緒にやりたいことや、何が生徒のためになるかについて考えてみて、一度挑戦してほしいと思います。

 

坪山 本日はお忙しいなか、貴重なお話をありがとうございました。