COLUMN

2021.06.10

NASEF JAPAN国際教育サミット2021 基調講演 UCIスタインクーラー博士「eスポーツが及ぼす次世代に対する教育的影響」

2021年3月20日に日本では初となる「NASEF JAPAN 国際教育eスポーツサミット 2021」が開催されました。

基調講演では、北米で教育のなかにeスポーツを取り入れた第一人者、カリフォルニア大学アーバイン校のコンスタンス・スタインクーラー博士が登場。NASEF本国の研究成果を発表しました。

 本コラムでは、基調講演の模様をお伝えしていきます。まずは、eスポーツを教育に取り入れる目的や意義についてです。

eスポーツによってすべての学生に利益をもたらすプログラムを提供する

スタインクーラー博士は、教育におけるeスポーツプログラム立ち上げの中心人物。約15年にわたって、ティーンエイジャーが熱中するゲームを研究しています。

研究の目的は、競技としてのeスポーツだけに目を向けるのではなく、eスポーツによってすべての学生に利益をもたらすプログラムを提供すること。

eスポーツは学校生活だけでなく、学校以外の生活で役立つスキルや価値観を見つけるためのプラットホームとなる可能性があるのです。

学校で学んだことが社会でどのように役立つかを理解してもらう

取り組みの核心は、学校で学んだことが実際に社会でどのように役立つかを生徒に理解してもらうことです。

アメリカでは学校で優秀な成績を修めている生徒でさえ、学校を「資格取得の場」としてしか見ていない実態があります。教育の目的は人生を豊かにすることなのに、大学へ進学できる子とできない子を振り分けているだけという側面があるのです。

ですから、子どもたちに「教育が子どもたちが大切している空間を豊かにできること」を理解してもらい、学校教育がなぜ重要なのかを伝える必要があります。

eスポーツを通じてソフトスキルを身につける

予測不能な社会が続いていくなかで次世代の学生たちに求められる能力は、コミュニケーション能力やリーダーシップといった「ソフトスキル」です。

 ソフトスキルをどのように身につけるかと考えたとき、学生たちの多くが情熱を傾けているゲームが果たす役割は大きいといえるでしょう。

 実際、eスポーツのコミュニティには様々な役割があり、これらの役割を通して奨励されるような知識・スキルの取得が期待されています。そしてNASEFのプログラムには、参加した学生に利益をもたらすために重要な要素が多く含まれているのです。

つづいて、3年半にわたって続けているスラインクラー博士行っている研究報告から、eスポーツが教育にもたらす影響をみていきましょう。

 研究対象は裕福な学校や無償給食を実施している学校、リソースの少ない学校といったバリエーションに富んだ6校が選ばれています。

 eスポーツプログラムを通じて、学生たちにどのような変化があったのでしょうか。

1年目は各種項目で大きな進歩が見られた

1年目は、フォーカスグループへのインタビューや保護者との面談を通じて調査した結果、科学的思考・数学的論証・言語や芸術で大きな進歩があり、社会的感情学習と人間関係についての議論が急上昇したことが判明しました。特に低所得層の学校で大きな伸びがあったことが大きな発見です。

では、具体的にeスポーツを通じて、学生たちにどのような変化があったのでしょうか。

 例えば『League of Legends』のようなゲームで上達するためには、データを理解する必要があり、問題解決のための努力が必要となります。

学生たちは『League of Legends』をプレイするなかで、特定のチャンピオン※ を選択する際「どのチャンピオンをプレイすれば、自分たちのチーム構成に良い影響を与えられるか」について話し合っていました。これは学生が問題をシステムとして考え、ある方法を用いて解決しようとしているプロセスといえます。

※チャンピオン:『League of Legends』では「優勝者」の意味ではなく、プレイヤーが操作するキャラクターの意味で用いられる。

 また、社会的情緒学習の例として、ゲーム中のイライラで気持ちが傾いたり、ネガティブな影響を受けたりすることについて話す生徒もいました。彼らはもともと「感情的になりやすい」という話をしていましたが、プレイを続けるなかで「チームメイトがゲーム中に失敗をしても、気にせずに自分のプレイに集中できるようになった」といいます。

人間関係についても、プログラムに参加している学生にとってeスポーツは、アイデンティティや所属意識につながっていることがわかってきました。人混みが嫌いで、スポーツを避けてきたような学生も「eスポーツの世界は本当に溶け込める場所だ」と話しています。

2年目はマッチング調査、3年目はパンデミックによりストップ

2年目は、NASEFのプログラムに参加した学生と、参加していない学生とをマッチングさせた比較研究が行われました。

 結果として「科学的・数的(STEM)思考」「学校との繋がり」「コミュケーション」 「理論的思考」の項目でプラスになっているという成果が得られました。そのほかにも、忍耐力や批判的思考のような社会的感情学習の成果も得られています。

 ただ、「感情の調整」で否定的な結果が出ており、学生は忍耐力を失い、気性が傾くことに自覚的になっているようです。

 3年目はパンデミックの影響を受け、研究はストップしています。この間に取得していたデータの分析が行われており、学生にはリーダーシップを発揮する機会が得られているという結果が出ています。

コネクテッド・ラーニングによる「学び」の提供

以上の研究報告からもわかるように、NASEFの重要な構成要素のひとつは「コネクテッド・ラーニング」です。学生たちの興味や関心から始まり、社会や友人たちとの関係性のなかから学びを深め、その成果を社会で実践するというプロセスを重んじています。学習の機会は学校教育に限らず、生活の様々な場面で学びの機会があるのです。

 NASEFはこれまでに、学生プレイヤーを中心としたコミュニティを構築し、eスポーツクラブの学生にチーム内での競争だけでなく役割を与えてきました。特に彼らの活動を学校だけでなく他の仲間や大人と結びつけることで、多くの点でより良い結果につながっていると思われます。

テクノロジー(ゲーム)は学習や相互作用の邪魔をする側面もありますが、学習を促進してくれる一面もあります。研究は現在も継続中であり、今後のさらなる成果が期待されます。

 

[参考動画]